明治五年の狐火事
どんな伝承か
越後でも雪の深い北魚沼郡堀之内村での話である。明治五年三月、村の入口に住む老猟師の甚右衛門が、雪の中をうろついていた白狐を撃った。狐は跳ね起き、足を引きずって逃げる。その夜、近くの漢方医寒江惟春の家の二階に白狐が蹲り、傷ついた前肢を投げ出して頭を下げた。惟春は傷を洗って薬をつけ、二週間ほどかくまって癒してから帰してやる。その朝、八幡様の森の近くで子供が白狐を見つけ、集まった若者が捕らえて宮浦の佐七の家で料理して食べてしまった。二か月ほどのち、狐を見つけた助作の家から火が出て、同じ時刻に佐七の家からも火が出る。宮浦は焼き尽くされ、隣の新町も灰になった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。