松尾の鼻の沖に現れた白木の小舟の女
どんな伝承か
幡多郡清水町の松尾に出張友助という漁師がいた。妻の花美が釵をなくし、証拠もないまま紺屋の女房菊野に盗みの嫌疑をかけた。さらに草履が菊野の家の縁の下から出たと騒ぎ立て、菊野は世間から疎まれ、ある夜盛装して家を出たまま帰らず、翌日、天神の鼻の波打ち際に死体が上がった。花美はその夜から高熱に浮かされ、三日目に狂死した。以後、松尾の鼻の溺死人は決まって松尾部落の者ばかりであった。菊野の死後まもなく、清水の漁師が松尾の鼻の沖で漁をしていると青い火が浮かび、白木の小舟が矢のように近づいて来た。透きとおるような美しい女が二人乗り、深い海に棹を差しながら「違うよ、松尾の者じゃないよ」と言って消えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。