釜石港の岸壁に一年立ち続けた女
どんな伝承か
西丸震哉は昭和二十一年に三陸の釜石の水産試験所へ赴任した。夜中に釜石港の岸壁のへりを歩いて帰ると、試験所の一メートルほどの塀に女が海の方を向いてよりかかっている。通りすぎて振り返るといない。二、三日してまた見え、通りすぎた途端にふっと消えた。近づくと顔も目もあり、赤い鼻緒の下駄をはいて爪もうぶ毛もあるが、一度もまばたきをしない。バットで叩くとコンクリートを叩いただけだった。試験所ができる前、そこへ飛び込んで死んだ人が十二年前にいたという。やがて女は寝床の側で朝まで立つようになり、視線が合った晩は体温がすっと冷えた。所長に勧められて東京へ帰った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けは生きている —科学にとり残された霊の世界(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けは生きている――科学にとり残された霊の世界』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した、怪異と心霊をめぐる読み物である。読者から寄せられたお化けの報告や沖縄の刑場・遺念火の話、霊視の体験、近世随筆に見える妖草妖木・狐・天狗・人魂などの物の怪、フォックス家事件やクルックスの実験など欧米の心霊研究を扱う。著者が始めた「お化けを守る会」の由来、西丸震也・星新一との座談会、透視や念力を試すテストを含む全七章に、あとがきを添える。