水産試験所の塀に立つ赤い鼻緒の女
どんな伝承か
昭和二十一年六月、釜石の水産試験所に着任したばかりの西丸震哉は、宿舎がなく構内に寝泊まりしていた。町で麻雀をして零時半ごろ戻ると、コンクリートの塀に若い女がもたれている。前を通り過ぎた瞬間、その姿は消えた。数日後も同じことが起き、声をかけ肩に手をかけても、途端に消えてしまう。透けてはおらず、月のない闇でもうぶ毛まで見え、赤い鼻緒の下駄をはいて爪まで生えていた。やがて触れなければ消えなくなり、夜通し枕元に立つようにもなった。瞬きもせず目をのぞき込まれ、睨み返した晩には体温を奪われるように体が冷えた。取り殺されると恐れた西丸は翌日帰京する。十二年前に近くの海へ身を投げた女がいたと、後で知れたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けについてのマジメな話(平野威馬雄・1974年(昭和49年))
『お化けについてのマジメな話』は、平野威馬雄が昭和四十九年に著した幽霊とお化けをめぐる随筆である。自ら主宰する「お化けを守る会」に寄せられた体験談や、大阪の毎日放送のラジオ番組で聴取者が電話で語った話を軸に、前世や霊媒・降霊実験など海外の心霊研究、井上円了の妖怪論、古い記録に見える犬神などの憑きものを取りあげる。体験談から死後の世界、お化けを呼ぶ方法、昔のお化けへと進む八章立てで、巻末にあとがきを置く。