護岸にもたれる浴衣の女
どんな伝承か
著者が釜石の水産試験場へ着任したのは昭和二十一年四月で、前年に艦砲射撃を受けた町に宿舎はなく、製造工場の片隅に缶詰の箱を積み重ねて寝台を作って暮らした。夜は町へ出て麻雀をし、遅くに海沿いの道を帰る。六月に入ったある晩、試験場近くのコンクリート堤に女がもたれているのを見たが、通り過ぎて目をこらすと誰もいなかった。四日目の晩、同じ場所に浴衣姿の女がいた。二十七、八の色白の美人で、確かに人間だと確かめて横を通ったのに、視線で追ううちにふっと消えてしまった。飛んで行って草の根を分けて調べても何もいない。著者は明日こそ捕まえてやろうと決心した。
原典より
* 木曽御岳の人魂たち* カラステングがタコを食う* **呪い殺しの実験*** **雨やみの術*** **六○○○キロひとまたぎ*** **日蝕と雲と雨やみの術**### **巻末*** **…—— 山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。山や湿原の探検、チョウや小動物とのつき合い、酒の話とともに、横尾谷の岩小屋で出会った幽霊、木曾御岳の人魂、亡兄との交信、テレパシー、呪い殺しの実験、雨やみの術など、著者自身の体験した怪異をつづる。生き物・酒・山・兄との交信の四部からなり、あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。