雨に濁って騒いだ松島の海
どんな伝承か
旅行者には好い旅行という記念は多いが、好い景色という語はかえって空に聞こえる。松島の海などは、かつて小舟で渡った日に沖から雨の横吹きがあり、赤く濁って騒いでいたために、今も懐かしいという感じを抱くことができない。せっかく来たのだからと宿にいて日和を待つだけの熱心がなかったのは風流に反するかもしれないが、暮春初夏の静かな日の光に手伝ってもらえるならば、松島ならずとも多くの島山は皆美しいはずである。とにかく名所は我々にとって、実は無用の拘束であったと述べている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。