白い山百合を手に枕元へ来た兄
どんな伝承か
名古屋の歌舞伎座に出演していた三河家荒二郎は、長年世話になっていた横浜の芝居小屋の窮状を聞き、名古屋を引き上げて横浜へ向かった。危篤と聞いていた兄・荒五郎について大阪へ問い合わせると「危険期は過ぎた」との返事だったため安心していたが、横浜での二日目の演戯を終えて宿に戻り寝ていると、有松絞の着物を着て白い山百合を手にした兄が枕もとに現れ、「名跡と家のことを頼む」と言い残して消えた。驚いて飛び起きたところへ大阪から電話があり、兄がちょうどそのとき亡くなったことを知らされたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。