雲に映る大入道・富士見高原のブロッケン
どんな伝承か
昭和十年七月の名古屋新聞に、ブロッケンの幽霊の記事が載った。中部日本のハイキング適地として知られる長野県下伊那郡智里村の富士見高原で、山上から雲海を眺めると、自分の影が数千尺の大入道となって雲に映り、頭から五色の後光を放って一分から三分ほど続くという。飯田商工会議所は八月四日出発の一泊の見物団を募り、下条村出身の日本画家亀割隆志も登って写生する計画だった。筆者は、これはドイツのブロッケン山で古くから知られる現象で、日の出の光を背にした登山者の影が濃霧に映り、大入道や仏の姿に見えるのだと説き、霧の晩に電気スタンドを置けば座敷でもおぼろに見られると付け加えている。
原典より
* セントエルモの火 (211)* 狐狗狸の話 (213)* タッピングで弟の死を予知す (214)* 猫 (216)* 愛犬の死 (218)* 呪いの絵姿 (220)* 大樽滝の白蛇 (22…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。