押入れを開けるたび座っている老夫婦
どんな伝承か
福岡県嘉穂郡漆生村に平山という処があり、そこに坑夫の一家が住んでいた。家族は坑夫の息子夫婦とその両親の四人である。明治末季頃、両親の爺さんと婆さんが軽い病で相次いで死んだ。まもなく息子の細君が壁廚を開けると、死んだ二人が並んで行儀よく坐っていた。息子が「云いたいことがあるなら云ってもらおう」と告げると姿は消えたが、以後は昼でも夜でも壁廚を開けさえすれば二人の姿が見えた。ただ坐っているばかりであった。怪異は村中の評判になり、村人はそれを平山婆と呼んだ。息子夫婦は別の炭坑地へ移ったが、そこにも、さらに移った家にも二人は蹤いて来たという。
原典より
* 寄席の没落 (226)* 劇場売店の怪異 (229)* 金の義歯 (230)* 隱形術 (232)* 被服廠で死んだ友人 (232)* 蛇屋の娘の物狂い (233)* 遁げて往く人魂 (2…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。