線路に浮かぶ赤い提灯
どんな伝承か
山手線の大崎駅がまだ貨物専用だったころの話である。横浜から大崎へ向かう貨物列車の後部車掌が乗務していると、品川駅を離れて間もなく列車が急に停まった。線路へ飛び降りて機関車の脇へ行くと、機関手は危険信号だと言う。左は田圃、右は林で灯りらしいものは見えないのに、指す先には赤い提灯が線路から三尺ほどの高さに浮き、微かに揺れていた。徐行で近づいても線路に異状はなく、進むだけ灯は遠のく。大崎駅の近くまで来ると、いつのまにか消えていた。事務所で話すと駅長は笑い、あれは狸の悪戯だと言った。
原典より
* 妖女の舞踏する踏切 (340)* 怪火に浮ぶ白衣の男 (341)* 隧道内の怪火 (341)* 鉄道線路を走る少年 (342)* 旅客の気絶する隧道 (344)* 新有楽橋の妖異 (344)*…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。