卒塔婆にしがみつく長靴姿の男
どんな伝承か
品川橋のたもとで酔ってタクシーに乗った製材工の男が、運転手とその連れに雨で増水した川へ投げ込まれ、二日後に遺体で見つかった。警察は殺人として捜査本部を置いたが、車種と人相の断片しかつかめず、目撃した女給に一万枚を超える免許証写真を見せても犯人にたどりつけない。そのころから、浮かばれぬ男が出るという噂が流れはじめた。東品川の漁師が事件の二週間後の明け方、うなぎ漁の帰りに現場の四百メートル下流、天王洲の水中に立つ卒塔婆のあたりで櫓が急に重くなり、見ると濡れた髪を振り乱した長靴姿の男が卒塔婆にしがみついていた。同じ目に遭った漁師が相次ぎ、三日ほど誰も川へ出なかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。