轢いた男の亡霊に追われた運転手
どんな伝承か
昭和十年四月、読売新聞が伝えた話である。牛込区市ヶ谷谷町に住む山手バスの運転手深津次郎介は、自宅でカルモチンを飲んで自殺をはかり、近所の病院で手当てを受けた。回復してから調べると、前年の十月、同じ区の弁天町でバスを運転中に喜久井町の農林省属佐藤芳雄を轢き殺し、過失致死で罰金を取られ、遺族とは慰藉料で示談になっていた。ところがその後、夜になると佐藤の亡霊が現れて運転ができない。年明けに会社を辞め、円タクの臨時運転手として働いたが、行く先々で亡霊に出会い、神経衰弱に陥って引きこもっていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。