老禅師が軽々と抱き下ろした才一郎
どんな伝承か
慶応三年十月十三日の夜、七五三縄に掛かって息もないような才一郎を、柳田家の人々は梯子を掛けて下ろそうとしたが、うまくいかなかった。そのとき逗留していた泰治のまたいとこで駿河清見寺の隠居、六十四歳の芙山老禅師がするすると梯子を登り、才一郎を軽々と抱いて神前まで運び、新しい菰の上に寝かせた。禅師は、腰に手が届いたと思うと体がひとりでに抱かれ、非力な年寄りが力も入れずに神前まで運べた、我ながら不思議で神の力添えに違いないと語り、聞いた者は皆恐れおののいたという。
原典より
梯子へ登り、才一郎の腰のあたりへ手先とどきぬとおおもへば、自づからやすやすと抱かれ、非力の老人力を用ひずして知らず覚えず御神前迄抱き行きぬ、…—— 近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年))
『近代日本霊異実録』は、笠井鎮夫が著して昭和四十一年に昭森社から初版を出した、幕末から近代の神憑りと霊異の記録で、ここに収めるのは昭和四十八年に山雅房から出た複刻版である。金光教・黒住教・天理教・大本の教祖の神憑り、井上正鉄の求道、宮地常磐・堅磐父子や河野至道の神仙譚、天狗の弟子寅吉の話、長南年恵の奇跡などを、手記・写本・旧著を引いて語る。全十二録からなり、第一録には金光教に入信した著者の父の手記を収め、巻末にあとがきと著者略歴を置く。