福住の氷室跡で見た箱罠のイノシシ
どんな伝承か
奈良県天理市福住町浄土の氷室神社の周辺には、元宮司の榊勉さんによれば二十ほどの氷室跡が残る。冬のさなか、著者は神社の裏の通称室山に入り、すり鉢状にくぼんだ氷室跡を二つ確かめた。そのあと氷を切り出した水池の跡を探すうち、里山の間の雪をかぶった冬の田で、鉄の箱罠にかかった大きなイノシシに出会った。逃げ出そうと地面を激しく掘ったため、そこだけ雪が消えて泥になっていた。近づくとイノシシはうなり声を上げて罠の中で跳ね回ったが、見つかれば撃ち殺される運命で、どうすることもできずその場を離れたという。自分のオスで死んだ谷川の猟師円次の最期を思い起こさせる光景だった。
原典より
人なつこいことも、あるらしいあのとき山中には何がいたか第9章 氷室と風穴を訪ねて「氷の朔日」土佐国・手箱山の「雪屋」周辺より著しく寒い土地がある天然クーラーの方は庶民が利用した世界遺産になった荒船風穴—— 村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。