ドテラの紐を結べない大学生三人
どんな伝承か
その日たどり着いたのは、雌阿寒温泉という山中の一軒家で、国民宿舎兼ユースホステルであった。近くには針葉樹林に囲まれた沼があり、新雪をうっすらかぶった雌阿寒岳が林の上に寒々とした姿を見せていた。風呂へ直行すると、入れ替わりに三人の若者が上がっていった。人気がなくなった湯を心ゆくまで楽しんで脱衣場に戻ると、三人はまだ火の気のないところに突っ立っている。彼らは丁寧な言葉づかいで、このドテラの紐をどうやったらいいのかと尋ねてきた。人を馬鹿にしているのかと顔を見なおすと、すごい真剣そのものであった。あとで大学生と分かったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
山とお化けと自然界(西丸震哉・山岳・怪異エッセイ・1990年(平成2年))
『山とお化けと自然界』は、西丸震哉が旧著三冊を編み直し、一九九〇年に文庫版あとがきを付けた随筆集である。山や湿原の探検、チョウや小動物とのつき合い、酒の話とともに、横尾谷の岩小屋で出会った幽霊、木曾御岳の人魂、亡兄との交信、テレパシー、呪い殺しの実験、雨やみの術など、著者自身の体験した怪異をつづる。生き物・酒・山・兄との交信の四部からなり、あとがきに『未知への足入れ』『山だ原始人だ幽霊だ』『山の動物誌』を元にしたと記す。