腕を折られた将棋倒しの死骸
どんな伝承か
深川の焼け跡で、こんなに無残な姿にならなくても何とか逃げようがあったろうにねえ、と沢田正二郎はとうとう泣き出してしまった。これに対して著者は、わっと度を失えば女だって男だってみんなモップになってしまうのだから、一人や二人が抑えたところでかなうものではないと答えた。向こうの角のところに固まっている死骸はみな踏み殺されたものだ、その証拠にみんな腕を折られたり肋骨が飛び出しているではないか、という。沢田は、日本人はもっと災害時の訓練をしておかなければ今にもっとひどいことが起きますねと、両腕をこまねいて溜息をついていた。その生真面目な顔が忘れられないと著者は書いている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私の心霊術(長田幹彦・1955年(昭和30年))
『私の心霊術』は、長田幹彦が昭和三十年に著した心霊研究の随筆集である。死後に残る霊や地獄・極楽をめぐる考えを述べ、熊本の家系や安達謙蔵との交わり、東京放送局の文芸顧問だったころの回想、霊友会など戦後の新興宗教への批判、前著『霊界』への反響と自らの信仰を語る。「心霊科学の来世観」「霊界の構造」「ぼくの信仰」などの章からなり、末章「ある霊媒の生態」では霊媒服部との実験とそのトリックの顛末を描く。