拭いた縁側に残る七文半の足跡
どんな伝承か
向島の料理屋入金で追善会を開いた晩、十一時を回って帰ろうとすると、女中のおえんが顔色を変えて帳場から飛んできた。宵の口から妙なことばかり起きていたが、とうとうぽんたの幽霊が出たという。蠟燭を近づけて見せられた縁側には、拭いたばかりの板の上に小さな足跡が点々と残っていた。おえんは、ぽんたは七文半の足袋を履いていた、店の女中十人と比べてもこんなに小さい足はないと言う。親指がどれも曲がっているのは、幼い頃に荷車に轢かれて足が少し不自由だったからで、呼ばれた抱え主も真っ青になって認めた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊界五十年(長田幹彦)
『霊界五十年』は、長田幹彦が自らの心霊体験を一人称でつづった随筆集である。霊媒亀井三郎の実験に立ち会った話に始まり、大正十四年に東京中央放送局で見た変死した技師の霊、自殺者の霊、神隠し、心霊写真、死者の霊との交わりなど、長年にわたって見聞きした出来事を語る。「亀井霊媒の実験」「放送局の幽霊」「霊界夜話」「幽霊のキスマーク」などの短い章を連ね、心霊研究の知人や医師との問答を多く交える。