戦地で同郷の兵と交わした最後の言葉
どんな伝承か
宮城県遠田郡涌谷町出身で輜重兵として召集された手島権八という農民は、八十七歳のとき、日露戦争を次のように追懐している。弾傷の兵隊は可哀そうだった。その補充で内地から召集され、新しい兵隊がどんどん来た。山根の小さい村の者だが、大泉泰治さんに会った。いつ来たのかと問うと、一月ばかりになる、これから奉天攻撃に行くところだ、お前たちはどこへ行くと言われた。患者かつぎに行きながら振り返って見たら、スーンとしたように立ってこちらを見ていた。三十過ぎて後備で召集され、涌谷の家には十歳を頭に四人ばかり子供がいたはずで、そのスーンとした姿を見たとき、死なないで帰ればいいなあと高橋平蔵君と語り合ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶(川村邦光・1989年(平成元年))
『幻視する近代空間 ―迷信・病気・座敷牢、あるいは歴史の記憶』は、川村邦光が一九八九年に著した近代日本の民衆の心性をめぐる論考である。明治の「血税一揆」の流言、トラホームと〈迷信〉、狐憑きと精神医学、「脳病」「神経病」、座敷牢と精神病者監護法、芦原将軍や出口なおの神がかり、祖先教と靖国の霊魂の管理を、新聞記事や医学書、調査報告から読み解く。はじめにの後に三部と終章「近代日本と霊魂の行方」を置き、あとがきで結ぶ。