下谷の家に通う女に憑いたタヌキ
どんな伝承か
昭和九年か十年ごろ、岡田文夫の家が東京の下谷にあった時分の話である。掃除などの手伝いに通ってきていた三十年輩の女が、ときどきタヌキ憑きに陥る性癖を持っていた。異様な気配がしたと思うと膝頭から震えはじめ、顔つきががらりと変わり、無礼者、頭が高い、さがれさがれと言いだす。周りが押さえようとしても、ものすごい力で暴れるので亭主を呼びに行く。駆けつけた亭主が殴り倒すと、やがてけろりと正気に戻った。周囲が真に受けたふりで伺いを立てると、縁組などについて託宣をしたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代の迷信(今野圓輔・現代教養文庫・1961年(昭和36年))
『現代の迷信』は、今野圓輔が昭和三十六年に著した、現代の俗信を一般の読者に向けて説いた読み物である。昭和三十年代の新聞・雑誌の報道や聞き書きを主な材料に、縁起かつぎ、前兆・占い・禁忌・まじない・願掛け、憑きもの落としの殺人や新興宗教の騒ぎまでを全国から拾い集めている。「現状」「過誤と真実」「その背景」「迷信論」の四部から成り、巻末に読者の問いに答える迷信身の上相談を付ける。