不老長命をもたらす人貝の伝え
どんな伝承か
著者の祖父が語ったところでは、人間がフケチノカヒというものを食べると不老長命を保つという。赤貝のような形の貝だそうである。あるとき二人の旅人が山里の一軒家に辿り着いて一夜の宿を求めた。一人の老翁が快く許したが、その夜、厨で老翁が赤ん坊を料理しているのを隙間から見た一人は、魔性の棲家に違いないと思い、連れを置き去りにして逃げ出した。残された男はその料理を食べたためにたちまち若返り、ひどく長寿を得たという。著者は同じ趣旨のものとして、平泉の清悦が山伏の庵で人貝を食べ、四百余年を生きたという伝えも併せて記している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
農民俚譚(佐々木喜善(著)・本山桂川(編)・佐々木喜善・東北民俗・1934年(昭和9年))
『農民俚譚』は、佐々木喜善が書きためた昔話や伝説を、その没後に本山桂川が編んで昭和九年に刊行した本である。陸中の和賀郡・岩手郡・胆沢郡で集めた炭焼長者や瘤取爺などの昔話に、河童・山男・山女・人柱・蛇にまつわる伝説、地蔵の話、異類に嫁ぐ女の話を記した「縁女綺聞」、紫波郡の口碑による「鳥蟲木石伝」などを収める。郡ごとの昔話には大正十三年の日付の前書きが付き、巻末に本山桂川の追想「佐佐木喜善君の遺業と其晩年」を置く。