正法寺の文福茶釜と粟の大木
どんな伝承か
江刺郡黒石村の古刹正法寺には文福茶釜が伝わる。昔、一人の馬喰が古道具屋で求めた茶釜を寺へ差し上げた。小僧が磨くと痛いと言い、火にかけると熱いと言って荒れ、夜は寝室で悪戯をするので、寺では金綱で庫裡の柱に繋いでおいた。ところがこの茶釜には蓋がない。気仙の稲子沢長者の下男が、預かった粟種を一か所に蒔き、草も肥やしも一本の苗にだけ与えたので、雲を引っ掛けるほどの粟の大木となった。樵夫たちが伐り倒すと、見物の小檀那が倒れる風に吹き飛ばされ、遠く正法寺の屋根へ落ちた。小坊主四人が風呂敷で受け止めると頭がぶつかって火が出、寺は火事となった。茶釜は逃げようとしたが綱に繋がれ、蓋だけがどこかへ飛んだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。