嬰児を食う花嫁の度胸試し
どんな伝承か
ある裕福な家の一人娘に婿を取っても、二晩と居つく者がいなかった。両親が婿を募る高札を立てると、あるならず者が来て喜んで婚礼を済ませた。その夜、花嫁は婿を先に寝かせて机で書物を読み、皆が寝静まると婿の寝息をうかがってから、畳をめくって床下の箱を取り出し、二歳ほどの嬰児の屍の腕を切ってさもうまそうに食べ始めた。婿は驚いて外へ逃れたが、思い直して部屋に戻り、鬼神魔物かと女を押さえつけた。食べてみろと差し出された手を払い、婿が女を組み伏せて両親を呼ぶと、これまでの男は皆これを見て逃げたのに、戻って私を捕らえたのはお前だけだ、これは餅で作った物だと明かし、その度胸を認めて初めて床入りしたという。
原典より
今迄来る男も来る男も私が此菓子を喰ふのを見ると、其夜の中に逃げ還つたが、お前ばかりは一旦外に出たけれども復戻って来て此私を捕へてくれた。—— 佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。