狸囃子(九鬼家の怪音)
どんな伝承か
西沢一鳳の『皇都午睡』初篇に、江戸の新場に仮住まいしていたころの話がある。夜更けになると、一、二町ほど離れた所で太鼓を面白く打つ音が聞こえてきた。芝居町までは八町もあって鳴物が届くはずはなく、江戸では町なかで囃子を鳴らすことも禁じられていたので、毎晩深夜に響く音を不思議に思っていた。ある日、渓斎英泉の家でこの話をすると、英泉は、それは九鬼丹波守の屋敷で狸が囃す狸囃子で、屋敷の中で聞いてもやはり一、二町先から聞こえるのだと答えたという。その屋敷は新場の中の橋の東詰にあったとされる。
原典より
ここで面白いのは、狸囃子の聞こえる九鬼家の場所が、「新場中の橋の東詰の屋敷」と指定されていたことである。—— 妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・1985年(昭和60年))
『妖怪の民俗学――日本の見えない空間』は、宮田登が一九八五年(昭和六十年)に著した、妖怪の現れる場所を論じた民俗学の書である。柳田国男と井上円了の妖怪論、幽霊と妖怪の違い、口裂け女と産女、皿屋敷、化物屋敷と下女、辻・橋・境の怪異、怪光と怪音、七不思議、通り悪魔と髪切りを、古文献や新聞記事、各地の伝承から読み解く。四章から成り、都市の空間に妖怪が現れる仕組みを軸に据える。