毎夜聞こえた新場の狸囃子
どんな伝承か
狸が腹を鼓のように打つという言い伝えは古く、連歌や狂歌にも詠まれてきた。著者はかつて江戸の新場に仮住まいしていたころ、夜が更けると一、二町ほど離れたあたりから、いかにも面白そうな太鼓の音が聞こえてくるのを不思議に思った。芝居町までは八町も離れていて鳴り物が届くはずがなく、市中で囃子を出すことも禁じられている。陰間茶屋の茶番狂言かとも考えたが、毎晩夜更けに続く。ある日、渓斎英泉のもとでこの話をすると、あれは狸囃子で、九鬼丹波守の屋敷で狸が囃しているのだ、屋敷の中で聞いてもやはり一、二町先から聞こえる、と答えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。