北風に乗って流れ着いた薬師
どんな伝承か
むかし、秋も深まって柿の実が多くとれた年のことである。午前は油を流したように凪いでいた海が、午後になって急に寒い北風に変わり、たいそう荒れ出した。そのとき海岸に木造りの薬師様が流れ着いたので、村人は守護仏にしようと村の中央の薬師寺に持ち帰り、堂を建てて懇ろに祭った。この仏は仏浜の薬師の姉妹といわれ、北風薬師は妹だとも伝える。祭には若者が花を吹いて各戸に配り、神輿の列は堂から浜へ下って潮垢離をとり、村内安全と大漁を祈った。これを天道念仏講といった。薬師堂の祭礼には南風や東風が吹いても必ず北風になるという。
原典より
むかしむかし、秋も深まり柿の実が多くとれた年のことであった。—— 富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史)
『富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説』は、福島県富岡町の町史のうち考古・民俗を扱う巻で、ここにはその第九章「昔話と伝説」が収められている。昔話の節は昭和五十八年五月の福島県教育委員会による文化財基礎調査のまとめに町の既刊の話集から数編を加えたもので、麓山の白蛇や、大原の大吉・金平六など名のある狐の話が目立つ。伝説の節には朝賀城哀話、仏浜、戊辰戦争、鉱山、北風薬師などを収め、各話に伝承者の地区と名を添える。