溜池の岸で子を投げ飛ばした見えない声
どんな伝承か
明治のころ、島根県安濃郡刺鹿村の西川で、傘張りを営む生越家の養子の十四歳の少年が、家の裏の綿畑にある溜池で昼間に溺れ死んだ。その一時間ほど前、近所の農家の八歳の男の子が山遊びの帰りに一人で池の岸へ下り、手を洗ってから足を洗おうとかがむと、後ろから鋭く危ないと叱る声がした。振り向いても誰もいない。二度目はさらに強く声がかかり、それでも足先を水へ入れかけた瞬間、どけという激しい声とともに髪をつかまれ、畑の中へ三、四尺も投げ飛ばされた。子は家の裏口まで逃げ帰って気を失った。溺死の騒ぎの後にこの話が知れ、親は池の死神か河童から産土神が救ってくれたと喜んでお礼参りをしたという。
原典より
再び足を洗はうとすると、復も「あぶない、あぶない」とこのたびは二辭で、その聲は一層強く響いた。—— 心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年))
『心霊不滅』は、岡田建文が著し、昭和十五年に大阪の国民書院が発行した心霊研究書である。人の心霊は肉体の死後も存続するという立場から、神道の神霊の垂示を引きつつ、心霊の本質と「化精」、遠感と魂の遊離、生霊、二重体、交霊術と霊媒、霊感筆記、幽霊写真などの物理現象、幽霊の出現を論じる。序説と七章からなり、第三・四・五・七章に「例一」「例二」と番号を付けた事例を並べ、今昔物語の説話、江戸から昭和の国内の見聞、欧米の報告を挙げる。