梳き櫛の形で光るお菊虫
どんな伝承か
竹内に櫛屋があり、お菊という娘がいた。家が貧しいので、十五歳のお菊は重い荷を負って櫛の行商に歩いたが、思うようには売れず、その日の米さえ買えなかった。思いあまってある日、郷倉に忍び込み、一夜の粥を炊くだけの米をつかもうとしたところを役人に見つかる。お菊は油喜の家の前を流れる小川に飛び込み、樋の中へ潜って隠れたが、ついに見つかって突き殺されてしまった。以来、田植えの始まるころになると、その小川の石垣から川下にかけて、梳き櫛の形をした蛍のように光る虫が一面に現れる。人はこれをお菊の妄念だとしてお菊虫と呼んだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年))
『暮しの中の妖怪たち』は、岩井宏實が昭和六十一年に著した妖怪の概説書である。鬼・天狗・河童から山姥、産女、雪女、怪火、ザシキワラシ、化け猫、狐狸、幽霊まで、各地の伝承や古典・絵画に見える妖怪を一つずつ取り上げ、その姿と仕業を説く。第I章で個々の妖怪を紹介し、第II章で妖怪の性格、出現の空間と時、正体を論じ、巻末に著者が資料とした妖怪の本の一覧とあとがきを置く。