狐の尾に合わせて踊らされた嘉平
どんな伝承か
尾張の吉川源吾が伝えた話で、およそ三十年前のこと。中島郡板葺今村で代々庄屋を務める堀田幾四郎が、清洲の代官所から昼ごろ帰り、座敷から畑を眺めると、農夫の嘉平が肥桶を担いで作物を踏み荒らし、東へ西へと何かを追うように歩き回っていた。やがて柄杓を左右に振り出す。外へ出てみると、数町先に老狐がいて尾を振っており、嘉平はその動きのとおりに柄杓を振り、狐が進めば進み退けば退いた。大声で呼んでも正気に戻らず、狐のほうへ走り出そうとしたので、幾四郎が背中を力いっぱい叩いてしかりつけると、ようやく我に返ったという。
原典より
幾四郎は、嘉平をつかまえて背中を力一杯どやしつけ、おまえは狐につままれているのに、それが、わからないのか! と怒鳴りつけたところ、嘉平はこの時はじめて正気に返った。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。