裸で石を運び徴兵逃れを祈る若者たち
どんな伝承か
ある新聞が「徴兵のがれの祈禱」と題して報じた話。ある人が用事で駿州の興津へ出かけると、線路脇にあたる庵原郡倉沢村の天神社に無数の蠟燭がともり、石段に人影が見えた。夜更けに何事かと近づいてみると、村の若者二、三十人が素裸で潮水に身を清め、石段の両側に百余りの提灯を吊るし、社前には明々とかがり火を焚いていた。石段に一列に並んだ若者たちが五百匁ほどの丸石を下から順に手渡しで送り上げ、最上段の礼服の男がこれを受けて千個の石を社前に供え、一同合掌して一心不乱に徴兵を逃れられるよう祈っていたという。
原典より
何事を祈願するのかと、近よって聞くと、図らずも、一心不乱に徴兵のがれの祈願をしているのだということであった—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。