嵐の夜に消えた提灯と戦地を照らした灯
どんな伝承か
日露戦争で旅順攻囲が続いていた明治三十七年頃、岐阜県土岐郡多治見に近いある村の出征兵士の妻は、夫の無事を祈って毎夜鎮守の社へ参っていた。ひどい嵐の夜も家紋入りの丸提灯を手に社へ行き、提灯を狐格子に掛けて祈ったが、祈り終えると灯は消え、提灯そのものが跡形もなく消えていた。同じ夜、戦地の夫は斥候に出て敵に追われ、闇の中で鉄条網の張られた池に行く手をふさがれた。その時どこからともなく淡い灯がさし、その光を頼りに鉄条網をくぐり抜けて本隊へ戻ると、営舎の入口に我が家の定紋の提灯がともっていた。凱旋後に話を突き合わせると、日時がぴたりと重なっていたという。
原典より
そしてその不思議な救いの灯の話を、妻に物語った時、それが偶然にも、大暴風雨の闇夜に、鎮守の社へ日参に赴いた折、提灯の失せ去った不思議のあった日と、ちょうど時刻も同じであったことが判った。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。