土砂が降り味噌が消える造り酒屋
どんな伝承か
明治六、七年頃、備中国賀陽郡影村の造り酒屋井口竹次郎の家で、ある夜突然座敷に土砂が降り、瓦や石のかけらまで飛んできた。初めは鼠の仕業と気にしなかったが次第に激しくなり、昼でも人のいない座敷で同じ音が響いた。武芸の心得がある竹次郎は動じなかったが、八十を越えて達者だった老母が寝床で覚えのない粗相を繰り返し、それを恥じて衰え、ついに亡くなった。蓄えの味噌桶の一つは空になるほど減り、茶褐色の獣の毛が付いていた。怪しい振る舞いのある下女に暇を出すと怪事はぴたりと止み、その下女が隣村の竹の荘村の家に奉公すると、そこで同じ怪事が始まったという。
原典より
その下婢が、隣村の竹の荘村某方に奉公したところ、その家でも同様怪事がはじまったということである。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。