弟に化けて訪ねて来た安義橋の鬼
どんな伝承か
安義橋の鬼は、二十歳ほどの美しい女に化け、薄色の衣に紅の袴をつけて橋の欄干にもたれていた。通りかかった武士は鬼と見抜き、馬に鞭を当てて逃げた。追ってきた鬼は、朱色の丸い顔に目が一つ、背丈は八、九尺、指は三本で五寸もの爪があった。武士は観音を念じてようやく人里に逃げ込み、鬼はいずれまた会おうと言って消えた。のちに家に怪しいことがあって陰陽師が固い物忌を命じた日、陸奥にいるはずの弟が訪ねて来た。兄が家に入れて泣きながら語り合ううち、二人は急に組み合いとなり、弟は兄の首を切り落として妻を振り返った。その顔は橋で追ってきた鬼の顔だったという。
原典より
また、安義橋の鬼は二十歲許りの美女になり、薄色の衣をなよやかに、紅袴をつけて橋の高欄によりかかつてゐた。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。