天井裏の鬼の声と墓の少将
どんな伝承か
平安末期、京の町は人口が急にふくれ上がり、露地裏に大工・左官・絵師・研師・井戸掘り人足・行商人らがひしめいて暮らしていた。話は京のはずれの分限者の家に移る。人を介して迎えた婿は、色白でやんごとなき風姿だが、なぜか顔を袖で覆って見せようとしない。同居を条件に婿とした、その晩の夜更け、天井からすさまじい物音と唸り声が降ってきた。「天の下の顔良しとは、おのれのことか」と鬼と覚しき声が響き、娘は三年前から自分のものだと婿を責めた。老夫婦の勧めで「顔をとのみ答えよ」と言うと、鬼は「さらば吸うぞ」と婿の顔を吸って七転八倒させたのち、「よし、娘はそちに取らせよう」と天井裏を踏み鳴らして立ち去ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。