扇で顔を隠して死んだ女狐
どんな伝承か
『古今著聞集』に載る、一層哀れな狐の話。ある夕暮れ、一人の若者が朱雀大路を歩いていると、腰のあたりまである長い髪をゆらしながら歩いて来る、美しい娘に出逢った。引き寄せられるように口説くと、娘は「私と寝ればあなたの命がありません。でも、もしあなたが私のために法華経を書いてねんごろに供養してくださるなら、私があなたの命に代わりましょう」と言った。二人はとある堂に入って一夜の契りを結んだ。明け方、鶏の声が聞こえると娘は立ち上がり、男の扇を乞い受け、「陽が昇ったら、武徳殿のあたりに来て見てください。私が何者かもおわかりになるでしょう」と謎めいた言葉を残して、闇の中に消え去ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。