妻に化けて本物と鉢合わせした狐
どんな伝承か
京の役所に勤める下級官吏の若い男が、右京のはずれに妻と二人で住んでいた。ある晩、妻が近所へ用足しに出たまま戻らず、小半刻ほどして裾を払いながら帰って来る。ところが直後に、姿も容も身につけた物も声までも寸分違わぬもう一人の妻が入って来た。狐の仕業と怒った男が太刀を振り上げて一方に躍りかかると泣きわめき、もう一方を追えばこれも手をこすり合わせて泣く。やがて二人は髪や手足を掴んでの大乱闘を演じ、先に帰った女の方が怪しいと見た男が掴みかかると、女は臭い小便を浴びせて一匹の狐と化し、鳴きながら開いた戸口を逃げ去ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。