南殿で太刀の石突をつかむ鬼の手
どんな伝承か
延喜か朱雀院の御代のことだろうとされる。ある殿が宣旨を受けて陣の座へ向かう途中、南殿の御帳の後ろを通ると、何者かの気配がして、佩いていた太刀の石突をつかまれた。手探りすると、毛がむくむくと生え、爪は刀の刃のように長い手だった。鬼だと知って恐ろしかったが、臆したと見られまいとこらえ、公の勅定を受けて参る者を捕らえるとは何者か、許さぬぞと言って太刀を抜き、その手をつかんだ。すると鬼はあわてて手を振り放し、丑寅の隅のほうへ逃げ去ったという。大鏡は、夜のことであったろうと記している。
原典より
延喜朱雀院の御頃、南殿の御帳のうしろに鬼がゐて参殿の侍の太刀のいしづきをとらへた。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。