ウジのわくまま置かれた巫女の亡骸
どんな伝承か
津村良松は豪家の妾腹の子で、嘉永五年に生まれ、寺へ小僧に行くうちに盲目となり、のち九戸郡久慈在で同い年のトラという巫女と夫婦になった。トラは勘がよく、香をかがずに指先で芹と三つ葉を摘み分け、口寄せが上手で声も美しく、オシラサマを遊ばせるときはまんのう長者の祭文を語った。大正の頃には狐を憑けるといわれ、恐れられた。昭和九年八月十一日に巫女が死ぬと、孫が来るまで暑い盛りに亡骸をそのまま置いたのでウジがわき、近所は気味悪がった。良松は村の城久山天徳院に葬り、田二段歩を寄進した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。