川に歌を書いた熊野権現と歌書村
どんな伝承か
一人の修行者が来て、橋の上から童子に、その綿を売るかと問うた。童子は笑って、河の瀬に遊んではいても鮎ではないから、うるかというわたはない、と歌で答えた。すると修行者は熊野権現と姿を現し、川の流れに歌を書き表したという。それによってこの地を歌書村と名づけたのだと申し伝えている。うるかは鮎の腸で作る塩辛で、「売るか」との掛けことばになっており、その歌問答がそのまま村の名の起こりとして語られている。『江刺郡歌書村風土記御用書出』に載る地名由来譚である。
原典より
一人修業者来て橋の上兮其綿を売かといふ 童子笑て河の瀬に遊へとも鮎にあらねばうるかといふわたなしと答ふれば修業者ハ熊野権現と現したまへ 川の流に歌を書あらわしたる兮 歌書村と名付候由申伝候。—— 日本伝説大系 第2巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第2巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第2巻』は、岩手・宮城・秋田の三県に伝わる伝説を話の型ごとに集めた伝説資料集である。山の争いや沼の主の手紙、巨人の足跡、八郎太郎、ザシキワラシ、河童、掃部長者などの伝説を、口承の聞き書きと近世以降の地誌・縁起から採る。凡例のとおり各項は伝承地を示した例話を冒頭に据え、〔類話〕〔文献〕〔参考〕を続け、柳田・高木による話型名を添えた項もある。