九十九谷に届かず去った弘法屋敷
どんな伝承か
京から血坂を越えて若狭へ入った弘法大師は、八ヶ峰のふもとの道で杖を地に突き立て呪文を唱え、水を湧かせたと伝える。小松谷を下って槇谷を抜け、堂本の一軒で茶を所望したことから、その家は植茶と呼ばれるようになった。谷を上って昼餉をとった場所は昼場、用を足した谷は苦谷ではなく甘谷と名づけられ、甘谷とその裏手の染ヶ谷には甘茶が生えるようになったという。さらに仁吾谷川をさかのぼって足谷に至った大師は、ここに堂を構えようとしたが、百の谷がなければならぬのに数えれば九十九谷しかなく、断念した。そのとき腰を下ろした場所を弘法屋敷と呼ぶ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第6巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第6巻』は、富山・石川・福井の北陸三県の伝説を集めた伝説集成の一巻である。神々の国争い、弘法大師や義経の遍歴、片目の魚、猿神や化物の退治など、伝承地を示した話を掲げ、県別の類話と古記録の文献記事を添える。巻末に福田晃の解説「主人公にたどる伝承世界」と、県ごとに近世の地誌から市町村史・民話集までを並べた使用資料一覧を置く。