高時川に身を投げた松前姫
どんな伝承か
東浅井郡虎姫町中野に世々開長者という人がいた。中野は水利に乏しかったため、長者は井ノ口越前守弾正が支配する高時川の分水を願い出た。弾正は反対で、片目の馬に綾千駄・絹千駄・餅千駄を乗せて一晩のうちに届けよという難題を出したが、長者はこれを見事に実行し、水を引く権利を得た。そこで沿線八か村の人を集め、井堰を作り三里にわたる堀割を掘ったが、簡単には水が通じない。長者には松前姫という一人娘があり、父の悲しみを知って、運河の成功を念じ自らを川神に捧げようと高時川の淵へ身を投げた。こうして運河は通じ、下流の八か村をうるおした。高時川の水をせき止めた所を「餅の井」といい、姫が身を投げた所は「井明神」として祀られたが、中野村から遠いので岩上神社として虎御前の麓に移して祀っている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第8巻』は、黄地百合子・酒向伸行・田中久夫が滋賀・京都・兵庫の三府県を分担して執筆し、福田晃がまとめた伝説集である。丹波の湖を神々が切り開いた国造りの話、神同士の争い、英雄や長者の盛衰、蛇と人の話、魚・鳥・石・塚・祠堂の由来などを、各地の口承や記載資料から集める。第一部「文化叙事伝説」と第二部「自然説明伝説」に分け、各話を例話・類話・文献・参考の順に並べ、高木敏雄・柳田国男の対応する話名を付す。