井戸に封じられた雷と桑原の唱え言
どんな伝承か
今から八百年ほど昔、村外れの真言宗西福寺に俊乗房重源上人という僧と、寺働きの安之丞の婆さんがいた。ある夏、婆さんが境内の井戸端で洗濯をしていると俄に空がかき曇り、雷鳴とともに黒雲に乗った雷が婆さんの臍をねらって落ちてきた。身をかわすと雷は狙いを外して井戸の中へ真逆さまに落ちた。婆さんは盥で井戸を伏せて力一杯おさえ、重源上人が大きな石板を載せて厳重に蓋をした。上人が叱ると雷は井戸の中で涙を流し、今後は決して桑原をねらって落ちないと詫びたので許してやった。雷は「桑原、桑原」と唱えながら天へ帰り、以来この地に雷は落ちないという。雷除けに「桑原桑原」と唱えるのはこれによると伝える。
原典より
<高木―「八幡宮の井戸」・柳田―「雷松(雷石)」>今から八百年ほど昔のことと伝えられております。—— 日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。