滝壺に金を投げた滝野長者と長者石
どんな伝承か
山辺の東山中、伊賀境に接する室生村大字滝野は戸数わずか九戸の小村で、昔ここに石工を家業とする滝野長者が住んでいた。若い間の丹精の甲斐あって大和屈指の長者になったが、おごらずもとのままの家に住んでいた。弟は家出し、兄も馬で伊賀の上野方面へ去り、妻にも先立たれた長者は力を落とし、村の北にある雄滝の不動尊に日参した末、あるだけの大判小判を滝壺へ投げ込み、その身も飛び込んで自殺した。後の大干魃の折、村人が滝壺をさらうと金は一つも出ず、長持形の大石が現れた。近くの小山へかつぎ上げて打ち割ろうとすると、急にものすごい雷雨が起こり、二度試みても同じで、ついに断念した。この長者石は今もあって、元日の朝、中で鶏の鳴く声がするという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。