洪水に流された甘露寺の黄金仏
どんな伝承か
廃甘露寺の本尊にまつわる話である。連日の豪雨で渓流があふれ、寺堂はかろうじて倒壊を免れたが、本尊の観音は早くに濁流にさらわれて流れ下り、三原沖へ出て、遠く沼隈郡阿伏兎の海上に着いた。そのとき漁夫がたまたま網を下ろすと、網の中に光を放つものがある。よく見れば端麗荘厳な黄金の仏で、慈光が四辺を照らし、尊さはこの上ない。漁夫は驚き喜んで持ち帰り、朝夕の礼拝を欠かさなかった。霊験は日ごとに著しくなり、やがて漁夫たちが相談して岬の先に一宇を建てて祀った。それが今の阿伏兎観音なのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第10巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第10巻』は、全国の伝説を型ごとに分けて集めた叢書の一巻である。岡山・広島・山口の三県を伝承地とし、蘇民将来、吉備津彦と温羅、厚狭の寝太郎、化け猫、河童駒引き、夜泣き石、姥棄て山などの伝説を、聞き書きや市町村誌、民話集から採って収める。「文化叙事伝説」と「自然説明伝説」の部に分けて番号順に並べ、各話には伝承地と本文のあとに〔類話〕と近世の地誌などを引く〔文献〕を添える。