焼き捨てを怠った村と火伏せの天狗
どんな伝承か
およそ千二百年前、孝謙天皇が病を癒すため奈良田へ湯治に向かう途中、矢川の集落に一泊した。土地の豪士深沢常左衛門の家が仮の宿と定められたが、ふさわしい部屋がなく、板敷きをしつらえて御座所とした。天皇は翌朝、その板敷きを月の出ぬうちに焼き捨てよと言い残して発たれたが、村人が言いつけを守らなかったため、集落から火が出て大半を焼いてしまった。峠の途中でそれを見た天皇は哀れに思い、杖を刻んで火伏せの神として与えたという。村人が祀ったその像が火伏せの天狗であり、以後は火の難を免れた。天皇が使った木枕にその姿を刻んで祀ったのが枕木天神だと伝えられている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。