熊井に伝わる蛇坂の大蛇退治
どんな伝承か
熊井では六月一日の朝、小麦粉の茹で饅頭を作って神々に供え、かいどうの出口で小麦の殻を焚いて尻をあぶる。昔、この地を通った田村麻呂将軍は、大蛇に苦しめられている住民の訴えを聞いて退治を思い立ったが、蛇の棲む範囲は広く容易ではなかった。岩殿の観音に祈ると、二十一日の夜に小僧が現れ、明日は変わったことがあろうと告げて消えた。夜が明けると一面の雪原で、高い山に登ると東北の方角だけ雪がなく、そこに大蛇がいた。住民が饅頭を作り焚火で兵をねぎらった末、いまの蛇坂で討ち取った。雪の解けていた地を雪解沢、将軍の休んだ地を将軍沢という。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。