常光寺の杉戸に老松を描いた古狸
どんな伝承か
鎌倉の建長寺の境内に古狸が住みつき、代々の住職を食い殺しては素知らぬ顔で住持に化け、鎌倉五山の筆頭におさまっていた。あるとき末寺を巡って旅に出て、日を重ねて常光寺までやって来る。作法にやかましく、何かと厄介であったが、着いて間もなく庭先の老松を見て、この木は近々枯れるから記念に描いておこうと言い出した。杉戸四枚を用意させ、いよいよ描く段になると人払いをして筆を振るい、老松の姿をみごとに写した。果たして数年後、松は枯れたという。滞在中は食事の作法が乱れがちで、僧たちの間で取り沙汰された。やがて寺を発ち、台ヶ原の本陣で輿を降りる際に番犬に噛まれ、里垣村でついに本性を現したと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。