杖が根づいた前川のお熊んさまの銀杏
どんな伝承か
川口市前川の伊田家の屋敷内に、通りに面して銀杏の老樹が立っている。根元に熊野社を祀っていたことから、土地では「お熊んさまの銀杏の木」と呼んできた。いつの頃のことか、白い浄衣をまとった旅の比丘尼が、夫婦連れであったとも伝わるが、この村までたどり着き、家の門前で腰を下ろして休んでいた。折しも昼どきだったので、家の者が飯と茶を振る舞うと、比丘尼は何度も礼を述べて去っていったが、突いてきた杖を置き忘れていった。取りに戻るだろうとそのままにしておくうち、杖は根づいて芽を吹き、年を重ねて大銀杏になったと伝える。幹には乳房のような瘤が垂れ、削って煎じて飲めば乳の出がよくなるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。