眉山の崩れを告げた蛇女房
どんな伝承か
島原の城下、片町に杏庵という医者が住んでいた。城下に悪疫が流行して杏庵も倒れたころ、夕立に降りこめられた美しい娘が門口で雨宿りをし、その夜から寝ずに看病したので難病は癒えた。娘はお諏訪といい、やがて杏庵の妻となって幸太郎を産んだ。ある日、杏庵が病家からの帰りに覗くと、大蛇が幸太郎に乳を含ませていた。妻は、自分は温泉山中の諏訪池の主で、狩り立てられ撃たれたところを曽祖父に助けられた者だと明かし、片目を取って子の守りにと与えて去った。寛政四年四月朔日の酉の刻、眉山の一角が崩れて大津波が城下を洗った。眉山の下の百姓家では、道の真ん中に大蛇が横たわっていたので人々が家に籠り、一人も命を落とさなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第13巻(山中耕作・宮地武彦(執筆・整理)/荒木博之(解説)・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第13巻――北九州(福岡・大分・佐賀・長崎)』は、福岡・大分を山中耕作、佐賀・長崎を宮地武彦が執筆・整理し、荒木博之が解説を担った伝説資料集の一巻である。姫島、うつぼ舟、百合若大臣、黒髪山の大蛇退治、平家谷、炭焼小五郎、河童、白米城など、北九州四県に伝わる伝説を題目ごとに収める。各題目は口承を重んじて選んだ例話を冒頭に据え、県別の類話を梗概にして伝承地と出典名を添え、近世以後の史料を文献として抜き出す編み方をとる。