牛の鼻を取った西田の鼻取地蔵
どんな伝承か
西田村の山王社の北、茶園迫に古い地蔵がある。安置の年代は詳らかでない。昔、西田村江月門の農夫で、常にこの地蔵を仰いで朝夕香花を手向けて怠らない者がいた。ある時、田を鋤いていると牛がなずんで、いくら鞭打っても動かない。日も傾いて村長の譴責は大方でなく、もとより貧しい身で助けを頼む術もなく憂えていると、どこから来たとも知れず小僧が一人現れ、農夫に向かって、汝の牛は疲れている、我が鼻取りをしてやろうと言って牛の鼻づらを取った。すると牛は常よりも速やかに進み、ほどなく田を鋤き終えた。農夫が喜んで、どこの寺においでの方かと尋ねると、小僧はにっこり笑って去った。家に帰っていつものように地蔵菩薩に詣でると、菩薩の脛が泥土に汚れていた。農夫は奇異に思っていよいよ尊び、これより里の人は鼻取地蔵と呼び伝えたという。
原典より
<柳田――「鼻取地蔵」>西田村山王社の北茶園迫に在り安置の年暦詳かならす古仏 むかし西田邨江月門の農夫常に此地蔵を仰し朝夕香花を手向て怠らさるもの有り或時出て田をすきけるに牛なつミていかに策うてともゆかす日影も漸く傾きて…—— 日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。