息止めの法で逃れた旅僧の正禅淵
どんな伝承か
小鹿野町から西へ十キロほど、旧両神村の薄川の谷をたどると大神楽という所に着き、そこに正禅淵がある。高田朝吉の両神村風土記によれば、昔ある旅僧が大神楽に庵を結び、けばの目立つ屋根を村人に笑われると、自ら屋根に火をつけて焼き払ったが、火は棟で自然に消えた。村人はその法力を恐れ敬い、僧の名から庵を正禅寺と呼んだ。のちに正禅は、村が預けていた共有の獅子頭を、諏訪明神を勧請した名主の将監に相談なく与えてしまう。怒った村人は正禅を薄川の淵に沈める私刑を加えたが、息止めの法で耐えた正禅は寺へ逃げ帰って姿を消し、以来その淵を正禅淵と呼ぶという。
原典より
小鹿野町から西に約一○籽、両神村の薄川の谷をたどってゆきますと、大神楽という所にまいります。—— 秩父の伝説と方言 より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
秩父の伝説と方言
『秩父の伝説と方言』は、秩父市教育長鶴沢福松の序を付し、編集委員が執筆整理にあたって編んだ秩父地方の伝説と方言の集成である。秩父市と秩父郡に伝わる伝説を集め、武甲山麓のジジイ・ババア石、橋立鍾乳洞の悪龍、畠山重忠や坂上田村麻呂にまつわる話、伐ると祟る天狗松などを語り口調で記す。伝説は石・水・塚・屋敷跡・山と人物・地名・社寺および城跡・木に関する八つの部に分け、話によっては他地方の類話を注記する。